青空が、広がってる。
その青空に手を伸ばしてみても、届かない。
眩しすぎるほどの光が、俺を焼く。
お前の世界ではないのだと、この身を責める。
それでも俺がここにいるのは、いられるのは・・・アイツがここにいるから。


青空


「そ〜ら!!」
そう言って後ろから抱きついた俺に、空はうわぁ!と短い悲鳴を上げ ながらバランスを崩しかけた。
「後ろから急には止めてって言ってるでしょ?で、どうしたの?」
何とかバランスを取り直すと、空は笑いながらいつも通りの反応を返してくれた。
それがどれだけ俺に安堵を与えるのか、こいつは知ってるのだろうか?・・・いや、きっと、知らないのだろうと思う。 だからこそ、こいつは普通に出来て、俺はこいつが好きなんだ。
「んー?別になんでもねぇよ」
まだ俺の腕の中にいる空を安心させるように笑いながら言った俺を、空は心配そうに見上げた。
「なにがあったの・・・?」
その問いに、俺はなんでもないを繰り返す。
それでも空は引き下がらない。
「なんにもなくなんてないよ・・・だって、凄く、哀しそうな顔をしてる」
はっとした。
そう言った空の顔が、今にも泣きそうだったから。
なんで、こいつが泣きそうな顔をするんだろう?
・・・いざとなるといつも頑固で、自分が大切だと思ったことは何一つ曲げなくて・・・本当に引き下がって 欲しい時は、いつも引き下がらない。
・・・なんで、こいつはいつも気がつくんだろう?
本当に辛い時は、隠してたっていつも・・・俺の心を読んだかのように、気がつくんだ。
気がついて、いつも光をくれるんだ。
「・・・青空がな、遠いんだ。遠くて、あまりにも眩しいんだ」
はっきりと話してるつもりだが、きっと、震えた・・・今にも消え入りそうな声なんだと思う。空が、心 配そうに俺の腕を握るから。
でも俺はそれに気がつかないふりをして、何とか言葉を紡ぐ。
「まるで、この世界にいる俺を責めてるように。お前と一緒に・・・お前の隣にいる事を、責めてるよう に・・・そう、気がついたら恐いんだ」
ぐっと、空を抱きしめている腕に力を込める。 緩めたら、俺の前から消えていってしまうような恐怖に襲われて。
「大丈夫」
俺の腕を握っている手にさらに力を込めて、力強く言いった。
そして俺を安心させるかのように、優しく微笑みながら大丈夫だよと、言ってくれた。 『大丈夫』ただそれだけで、まるで魔法のように俺は酷く安心してしまった。
その時ふと、何時の間にこんなに弱くなったのかと思った。
たった一人の人間がいなくなるだけなのに、こんなにも恐怖がこの身を支配する。
昔の、それも十年前の俺は、こんなに弱くなかった。・・・それでも、弱くなったのを悪いとは、思わな い。弱くはなったが、大切な物を、見つけたから。
大切な物を、手放さずに済む為に・・・守れる為に、弱さの中にある強さを、手にしたい。
 安心したからなのか、それとも隣にいられるという事が嬉しくてなのか、不意に零れた涙を隠すため に、抱きしめたまま空の肩に顔を埋める。
 そんな俺の頭を撫でながら、空は話始める。
「ずっと、一緒にいられるよ。だって紅邪は神様だよ?神様にだって恐れられている、邪神なんだよ? それに・・・ここが貴方の居場所だよ。世界が否定したとしても、私がこの世界に居場所をあげるから・・・ だから、あの場所には、戻っちゃ駄目だよ。あそこはあまりにも暗すぎて、静かすぎるから・・・あまりに も、哀しすぎるから」
・・・あぁ、やっぱりこいつは、空は、俺の光なんだ。
どうしようもない不安や恐怖を、簡単に安堵に変えてしまうんだ。
たった17歳の、無力な少女なのに。
そして俺は、その無力な少女がどうしようも無いくらい好きなんだ。

空が望めば、俺はこの青空さえ掴めて。
空が一緒なら、この身を焼く光すら恐くない。
空さえいれば、たとえ世界が否定しても俺はここにいて。

空の肩から顔を上げて、微笑んで見せて。
俺の大切な光を、守っていこうと再び誓い。
絶対に手放さないと呟いて。
どうしようもないほど好きな空に、愛してると言ノ葉を送る。





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