Between despair and hope
〜絶望と希望の間で〜

あれ・・・・ここは・・?
 目を開けてみると、そこに広がる世界は昔見た景色。
・・・あぁ、夢、かな。
たまにあるんだよね、これは夢だ!って思えることが。
この場所に最初に来たのはいつだっけ?
たしか・・・母さんが死んだ頃だっけかな。
父親代わりの明輔(メイホ)が連れて来てくれた場所。

第七章 それぞれの想い


暁に会うまでは、私は父さんと祖父母と一緒に暮らしてた。
といっても、あの人は仕事人間だから年中何処かに出かけてて、家に居るほうが珍しかった。だから実の父親って言っても面識がほとんど無いどころか、父親という認識すら無かった。
私の母さんは生まれつき体が弱くて、押さえきれない呪いに体を蝕まれて、それが次々と病魔を呼んで入退院の繰り返しだった。
それでも父さんはやっぱり傍にいてくれることはなくて、祖父母は母さんに付きっきりで、私はいつも一人だった。
初めのうちは寂しいとか言ってたけど、でも幼い子供って、大人が思ってるよりも周囲の様子や心に敏感で。
だんだん母さんが重い病気だってなんとなく解ってきてからは、早く良くなるように何でも我慢するって、寂しいなんて我侭言って迷惑なんてかけちゃダメだって自分に言い聞かせて。
私が行くといつも母さんは『寂しい思いをさせてごめんね』って辛そうに言いながら頭を撫でてくれた。
その度に私は『寂しくなんてないよ、私は、1人でも平気だから』って、一生懸命強がって、心を殺しながら自分に言い聞かせるように言っていて。
それを聞くと必ず母さんはすまなそうに、悲しそうに微笑みながら抱きしめてくれて。
あの頃はいつも優しい、そんな母さんが大好きで、だから余計にも我侭はダメだって思ってて。
今考えると、母さんにはそれが我侭よりも辛いことだったのかもしれない。

ある時急に容態が急変して、母さんは死んじゃった。
それは本当に急に訪れて・・・何も残さないで去っていった。
小さい子供にとって両親・・・特に母親はこの世界の全てで、この人が居なくなったら、捨てられたら、この世の終わりだとまで思うくらいで。
居なくなるのも捨てられるのも嫌で、恐くて、寂しくて、小さな手で必死になって母さんの服の裾を掴んで、走るようにしてついて行くの。
でもその小さな手を、『死』というモノが無情にも薙ぎ払う。
その瞬間に頭の中が真っ白になっちゃって・・・まるで夢でも見ているようで・・・こんなの嘘だって、どこかで私が叫んでて。
そんな私の元に、突然現れていろいろなモノを見せてくれたのが明輔。
出会いは私がホントにまだ幼い頃で、両親が恋しい時期で。
それ以来、父親代わりをしてくれてる。
・・・・・といっても、人間じゃないんだけどね。

    *

「まさか・・・アイツがそのような『呪い』を持っていたとはな・・・。」
遥華の居る部屋から少し離れた廊下で、先ほどよりも幾分傾いた月の光にその体を照らされながら小さな声で呟く。
「それにしても、そのような話ならば我も知っていてもいいはずだが・・・・・。
我に覚えが無い、ということは、我が生まれる前ということだな。・・・・あの男ならば知っていたのだろうが・・・ いや、あのような奴に話など誰が聞くものか。」
「どうなのだろうな・・・・アイツは。一体何処まで見抜いておるのか・・・・あのような話をされては こちらとて話さぬ訳にはいかぬが・・・まさか我が、ほんの少しでも・・・あの話に触れる事になるとはな」
そう言うと苦笑というよりも、嘲笑に近い笑みを口元に浮かべる。だがそれもすぐに消えて、真面目な、それでいて少し 悲しそうな、そんな顔をしながら、遥か遠くを見つめるかのように月を仰ぐ。
 ・・・・・母上・・・俺は一体どうすれば、貴方の為に報えるのでしょうか・・・。

 しばらくの間はまだ先ほどの部屋に座り込んでいたが、さすがに眠くなってきたので今は元居た部屋に戻っている。 月は起きた頃よりも大分傾いていて、明け方に近くなってきているようだったが二度寝する事を決めて遥華は布団に潜り込む。
 ねぇ、明輔・・・今、何処に居るの?
無性に人肌が恋しくて、無性にこの『闇』が恐くて・・・。
少しで良いから、会いたいよ・・・・夢でいいから、声を、聞きたいよ・・・。
1人は寂しくて、独りは恐いよ・・・独りは、もうヤダよ・・・・明輔・・・。
 ふと頬が濡れてる事に気が付いて、やっと自分が泣いていたのだと解った。
そう解ってしまうと、涙が止まらない。
布団を頭まですっぽりと被り小さく丸くなりながら、喉まで出かけた言葉を必死に飲み込んで、 声にならない声で咽び泣く。
どうか・・・どうか・・・・この声にならない声に、気が付いて。
どうか・・・どうか・・・・ほんの少しで良いから、この声にならない悲鳴に耳を傾けて。
どうか・・・どうか・・・・
誰か・・・誰でも良いから・・・
たすけて・・・・・



声にならない声が、闇に埋もれてゆく。
静かな、恐いくらいの静寂に、飲み込まれてゆく。
助けなんて来ないと知りながら、叫び声すら聞こえないと知りながら。
それでも、助けを求めずには居られない。
それでも、叫ばずにはいられない。
ソレヲ止メテシマッタラ、自分ガ壊レルト知ッテイルカラ。
イツカ、コノ闇カラ救イ出シテクレル人ガイルト知ッテイルカラ。



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