Between despair and hope
〜絶望と希望の間で〜

あれからしばらく色々な話をした。
暁との話は、あまり深く考えた事のなかった私にとってはただ凄いとしかいいようのない物だった。
中には理解しにくい物も有ったりした。
でもその度に、暁は私に解り易いように例えなどを使って説明してくれた。
・・・・・意外と優しいのかもしれない。
 そんな事を思っているうちに、どうやら目的地に着いたようだ。
着いた場所は大きな純和風作りの一軒家。塀や門を通り越して、そのまま庭に入ったようだ。
玄関を無造作に開けると、遥華を抱きかかえたまま家の中に入る。  家の中に入って、やっと暁は私を降ろしてくれた。
家の中は無駄な飾りなどもなく、置かれている物も木材の暖かさを生かしたセンスの良い綺麗な彫りが 施されている。
建物は古いお寺のような造りをしている。
左側に広がる庭やを見ながらも、前を歩く暁の後を追う。 すぐに目的の部屋にたどり着いたらしく、暁はその部屋に無言で入っていく。
入って良いのか戸惑っていると、暁が入れとだけ言った。

「ハクシュッ」
「・・・寒いのか?」
「ん、・・・ちょっとね。」
まったく、これだから人間は・・などと呟きながら、部屋の隅から火桶を持ってくるとそれで火を焚く 。
部屋の中央に置かれた火桶の傍に座って手を翳す。
 ・・・・・温かい・・。
・・・・やっぱりなんだかんだ言っても優しいなぁ。



第三章 境界線


あれ・・・?何処に行っちゃったんだろう・・。
いつの間にか、暁がいなくなってい る。
ふわっ
「え・・・?」
そんな事を考えている最中、頭に何かがかかる。確かめようと少し身動ぎすると羽織が落ちた。
「有るか無いかでは多少違うだろう。我ので悪いが、使いたければ使え」
 これを取りに行ってたの かな・・・?
「ありがとう、使わせてもらうね」
微笑みながら言う遥華を見ると、傍に腰を下 ろす。
さして気にした様子も無く、遥華は自分の体を羽織で包む。
「・・・一つ、いいか」
決して拒否する事を許さない声で言うと、返事を待たずに遥華を真剣な目で見据える。
「どうやって、この『世界』入ってきた」
「えと・・・・ちょっと、いいかな・・?全然、訳がわからなくて・・・頭の中パンクしちゃいそうな んだ」
泣きそうなのを無理矢理笑って、左手で顔半分を隠すようにして俯く。
「・・・・なにも、知らないのか」
静かな声。彼の優しさを全く知らなければ、きっと責めている と思うだろう、声。
でも決して責めているわけではなく、どこか気遣いの含まれている声で言った 。
僅かに頷くのを見ると、視線を遥華から火桶に映す。
暁は静かな瞳で火桶を見つめながら、 迷子の子供をあやすような、どこか優しさの含まれた静かな声で話し出す。
「ある筈なのに、決し て見る事も行く事も許されない場所。それがこの『世界』だ。」
「お前のいた世界を『人界』としようか。この『世界』と『向こうの世界』・・・つまりは人界との 境界は我等一族の結界で保たれている。
だからこの『世界』に入ってくる者はごく稀に来る、許さ れた客人と、この『世界』から人界に行く物好きな者のみだ。」
「そして客人が入るには事前の連絡が必要だ。だがその有るはずの連絡も入っていない。」
「じゃぁ、なんで私は・・・・この世界に来たって言うの?ただ座っていただけなのに、気がついたら この世界にいて・・・・なんで私なの・・・・っ私は呼ばれたわけではないのに、望んだわけでもない のに!
この世界のことなんて知らない、こんな場所・・・知らないっ!!」
泣き声に近い悲鳴のような、声で言う。
右手を痛いくらい握り締めて、顔半分を隠している左手に力を入れて・・・そうでもしなければ声を出 して泣いてしまいそうで。
そんな遥華に顔を向けると、 (おもむろ) に立ち上がって遥華の前で膝を付いて抱きしめると、まるで不安で泣いている子供をあやすように頭を 撫でる。
「そうか・・・・お前には、何らかの『力』があるのかも知れぬ。例えば、だが・・・持っている力や その量によっても変わるが、血そのものにもかなりの力がある。その血を、大地は吸った。」
「一つしか無いモノだが、二つ有る。自然・・つまり大地は一緒なんだ。人界も、この世界も。」
「・・・つまり、我の力とお前の『力』が何らかの形で保たれていた境界線を一時的に繋げてしまった ・・・そういうことが、無いとも限らない。」
「・・・すまない。今すぐ、お前を元いた世界に帰す事は出来ぬ。だが必ず、我が責任を持って元いた 世界に帰す。だから・・・泣くな・・。」


あぁ・・・遠くで暁の声が聞こえる。
なんでこんなにも遠いんだろう?
今抱きしめてくれてる の、暁なのに。
なんでこんなにも・・・離れてる (とおい)んだろう・・・
遥か遠くで微かに聞こえる声は・・・本当に申し訳なさそうな、痛みを堪えたような声音をしていた。


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