〜第五章 血の呪い
「・・・一応、ばれてねぇみてぇだな」
大きな建物にある一室の中を窓から覗いて確認し終わると、空都は静かに窓を開けた。
「さぁ?それはどうでしょう?」
どきっ!!
ぎくしゃくと音をたてそうな動きで、後ろを振り返る。
先ほどまで誰もいなかった場所に、ニッコリと微笑んだ女性が立っている。
空都はハハハ・・・っと引きつったような笑みを浮かべながら、固まったようにその場から動かない
。否、動けないでいた。
「一体どちらに遊びに行かれていたのです?仕事が溜まっていると・・・申し上げませんでしたか?
」
確かに、言っていた。
仕事が溜まっているから何処にも行かないで仕事をしろと、死刑宣告をされるのと同じぐらい辛い宣
告を。
そしてそういい終わると、俺の意見は堂々の無視をして部屋に鍵を掛けやがった。
断じて俺は悪くない!サボってるように見えて、これでも俺はちゃんとやってんだぞ。
気が付くとあの馬鹿がいつもいつもふらふらと何処かに行きやがって、餓鬼と遊んでやがんだ。
・・・そうだよ。あの馬鹿がそもそもの原因じゃねぇかよ・・・・・恨むぞ、暁!!
俺は無実だとでも言いたそうに両手を顔の横辺りまで上げて、冷や汗をかきながら話だす。
「いや、遊んでなどは・・・ただ、暁の所に用事があってな」
「・・・そうですか、では、その肝心の御用とは?」
一向に引こうとせず、女はただニッコリと微笑みながら問う。
「・・・・・内密なものだから、残念ながら教えられねぇ」
そう言われてしまうと、口出しできない。
やっと女は微笑むのをやめて、変わりに呆れたような表情をした。
「・・・はぁ・・・一体何処で育て方を間違えたのでしょう・・・。それに貴方様や主はどうしてこう
も・・・」
「・・・華月は、間違えてねぇと思うぜ。孤児だった俺を、拾って育ててくれた。俺の母親はアンタし
かいない。だからこれでも、かなり感謝してるんだぜ?
こうなったのは・・まぁ・・・・アイツの
幼馴染だってのも有るだろうけど、ぜってぇアイツの父親に感化されてるな」
そう言われた本人は、不意打ちを食らったのか驚きながらも、先ほどのような微笑ではなく、優しい、
我が子が愛しい、母親の微笑みを浮かべた。
「何を一人前のような事を言ってるんですか。貴方はまだまだ、手のかかる私の子供ですよ」
「・・・確かに、お二人があの御方の性格を継いでいると言えば、そうなのかも知れませんね。
あの御方の時も大変でした・・貴方達と同じで、いつの間にか何処かに行ってしまわれて。
無能な
のだと蔑まされておられてましたが・・・・でも、決して・・悪い王ではなかった。」
*
「・・・大丈夫・・?」
やっと、聞けた。
心の何処かで、聞いてはいけないと警告を放つ。
それでもやっぱり・・・痛そうな顔をしている暁を、放って置けない。
お節介だっていうなら、とことんお節介になってやる。
そう意気込んで、壁に寄りかかりながら方胡座をかいている暁に話し掛ける。
「・・・なにがだ?」
「痛そうな、顔をしてるから」
そう言われてやっと顔に出かけている感情に気がついたのか、少しバツの悪そうな顔をした。
「原因は、貴方の言ってた許す訳にはいけない事?」
その言葉を聞いて、暁は少し殺気を放つ。
「・・・ま、いいけどね。殺すならどうぞって言いたいところだけど、
「・・・死ぬ事が許されるのは、この身に宿る誓い・・・ううん、『呪い』を破った時だけ」
暁は未だに殺気を放ってはいるが、『呪い』という言葉には反応した。
「呪い・・・だと?」
「実際は違うんだよ?誓いだから。遠い昔の、約束事。でもそれは・・・私にとっては『呪い』でしか
ないんだよ」
そう言うと、諦めたような・・・多数の感情の混ざった複雑な微笑を浮かべながら、誰に聞かせる為と
いう訳ではなく、自分自身が確認しているかのように話し出した。
「ある一族が、代々神に仕えていた。そしてある時、歴代の一族の中で最も強い力を持っていると言わ
れていた女が、その神の
月日が経って、2人の間に女の
・・・しばら
くの間は平穏だった。嬰児は成人し、仕事もするようになった。そんなある日、女に心を寄せる者が出
てきた。でも女は1人の男と心を通わせている。そしてある日、女は心を通じている男に殺された。
だけど本当は心を寄せていた男が殺したのではないかとか、強すぎる力が暴走して死んだのではない
のかと言われてる。
そして、なぜかは解らないけど・・・数百年に一度、死んだ女と同じほどの力
を持った嬰児が産まれる。そして、それが私。
理屈はわからないけど、その体には神の血が流れてる。でも力は、封印されてるって話だけど・・・。
実際のところ、誓い自体どんな物か知らないの。でもね、それでも十分、この身に流れている血は、
呪いなんだよ」
暁は随分驚いたようだった。当然と言えば当然だが。
そうか・・・と呟くと、仕方が無い、という風に眼を閉じながら天を見上げて息を吐いた。
眼に見えない鎖。
しかし、静かに少しずつ、確実に締め付けて逝く。
ソシテイツカ、コノ首スラモ締メ付ケル。